有限会社 綱業商会では、ワイヤーロープ・ロープ・シート帆布加工で培ってきた現場対応力を土台に、中小製造業向けのAI導入・DX支援にも取り組んでいます。
その一つとして、NIRO(公益財団法人 新産業創造研究機構)のDX人材育成支援事業において、Google AppSheetを使ったノーコードアプリ開発講座を設計・実施しました。2024年度はメニュー型DX研修として実際に受講企業様へ講座と個別支援を行い、2025年度もNIROのメニュー型DX研修に「運用経験にもとづく、ノーコードでのアプリ開発と社内展開するための秘伝をレクチャー ~使う人が作るから、使えるアプリが作れる~」として掲載されています。
講座で大切にした考え方
この講座の合言葉は、「つかう人が作るから、つかえるアプリが作れる」です。
中小企業のDXでは、最初の導入費用だけでなく、その後の運用や改修が大きな負担になることがあります。せっかく管理システムを導入しても、現場側で直せない、使い方が定着しない、変更のたびに外部依頼が必要になる。こうした状態では、DXが現場の力になりにくくなります。
そこで講座では、完成済みのシステムを渡すのではなく、受講者自身がデータを整理し、画面を作り、機能を試し、社内で説明できるところまで進める構成にしました。目的は「アプリを一つ作ること」だけではありません。作ったあとに使い、直し、社内に広げていける人材を育てることを重視しました。
なぜAppSheetだったのか
AppSheetは、Googleが提供するノーコード開発プラットフォームです。Googleの公式情報でも、アプリ作成、データ入力、バーコード・位置情報・写真などの取得、ワークフロー自動化、Google Workspaceとの連携などが紹介されています。
講座でAppSheetを選んだ理由は、現場の小さな改善と相性が良いからです。最初から大規模な基幹システムを作るのではなく、「紙や表計算で管理しているものを、まず小さくアプリ化する」ことから始められます。入力フォーム、一覧画面、写真添付、QRコード、PDF出力、通知など、業務改善でよく出てくる要素を段階的に学べる点も、研修に向いていました。
2024年度に実施した研修の流れ
2024年度の研修では、集合研修と個別支援を組み合わせました。資料・実施計画では、2024年10月10日に第1回、10月24日に第2回を行い、その後11月に各社ごとの個別支援と導入支援を行う流れになっています。
第1回:AppSheetの基礎を手を動かして学ぶ
第1回では、Googleアカウントやスプレッドシートの準備から始め、AppSheetの編集画面、データとアプリの関係、ビュー、アクション、Botなどの基本を確認しました。単に画面の説明をするだけでなく、初級アプリや中級アプリを実際に作りながら進めた点が特徴です。
また、この段階で「自社アプリ・プライベートアプリのテーマ」を宿題として設定しました。講座側が用意したサンプルをなぞるだけでは、実務に戻ったときに使い道が見えにくくなります。受講者自身が「何を管理したいのか」「誰が入力するのか」「どこで使うのか」を考えることで、アプリ開発を自分ごとにしていきました。
第2回:データのつながりと自動化の考え方を学ぶ
第2回では、異なるテーブルをつなぐRef型、関数、条件式、Action、Bots、Format Ruleなどを扱いました。ここは、AppSheetが単なる入力フォームではなく、業務の流れを支える道具になるかどうかを左右する部分です。
例えば、商品や品目の管理では、会社マスタ、商品データ、画像、価格、登録者などが別々の情報として存在します。それらをどう結びつけるかを理解すると、入力の重複を減らし、一覧や詳細画面を見やすくし、あとから検索・集計しやすい形にできます。
時間に余裕がある場合の応用として、QRコードを使った商品管理、PDFの自動発行、通知連携なども扱える構成にしていました。ただし、重要なのは機能を増やすことではなく、実際の業務に必要な機能を見極めることです。
第3回:各社の課題アプリを個別に支援
第3回以降は、受講企業ごとの課題アプリに合わせた個別支援を行いました。実施報告では、勤怠アプリや在庫管理アプリを題材に、時間データの扱い、入力制限、データ抽出、管理対象の整理、入力者の想定などを支援した記録があります。
ここで大切なのは、「AppSheetで作れるもの」を押し付けるのではなく、「現場で何を困っているのか」から逆算することです。在庫管理なら、何を在庫として扱うのか、誰が登録するのか、写真は必要か、入出庫のタイミングはいつか、現場でスマホ入力できるのか。勤怠管理なら、時刻の扱い、入力ミス、集計の見方、修正権限など、業務ごとの注意点があります。

第4回:現場での導入支援
第4回では、会社訪問またはオンラインで、アプリ完成、テスト運用、追加機能の提案、同僚への共有、社内展開時の注意点まで扱いました。講座資料では、同僚へのアプリシェアやヒアリングを行い、実際に導入するときの注意点を説明する構成になっています。
この工程を入れた理由は、アプリは「作った瞬間」よりも「使い始めたあと」に課題が見えるからです。入力項目が多すぎる、現場でスマホを出しにくい、一覧の見方が分かりにくい、入力ルールが揃わない。こうした小さな違和感を、初期の段階で一緒に確認することが、運用定着につながります。
2025年度の掲載内容から見える改善点
2025年度のNIRO募集ページでは、綱業商会のAppSheet講座が研修ID「09-2」として掲載されています。公式の詳細PDFでは、講座の概要として、日常的なデータ入力やデータ処理などの事務作業に対し、コスト・スキルの両面でハードルが低く、少人数グループから運用可能なGoogle AppSheetを用いる実践講座であることが説明されています。
また、2025年度版では、日数・時間数が「講座3時間×2日間」「Web対面フォロー1日×2時間」「訪問アプリ導入支援1日×3時間」と整理されています。開催場所も、1・2回目は貸会議室、3回目はWeb、4回目は各社訪問という形で明記されました。
これは、2024年度の実施経験をもとに、受講者が学ぶ時間、作る時間、現場に持ち帰って試す時間をより分かりやすく整理したものだと考えています。AppSheetの研修は、1日で機能だけを詰め込むよりも、間に実務の検討時間を置いた方が効果が出やすい。実際の講座運営を通じて、その感覚がよりはっきりしました。
綱業商会らしいDX支援とは
綱業商会は、もともとワイヤーロープ、ロープ、シート・帆布など、現場で使われる製品を扱ってきた会社です。用途、環境、作業条件を確認しながら、一つひとつ現場に合う形を考える仕事をしてきました。
AppSheet講座でも、その姿勢は変わりません。DXだからといって、ツールの機能を先に並べるのではなく、現場で何が起きているかを聞き、今ある紙や表計算の流れを見て、まず小さく使える形に落とし込む。そこから、入力しやすさ、共有しやすさ、管理しやすさを整えていく。
この進め方は、ロープやシートの寸法を現場に合わせて調整する感覚に近いものがあります。完成品をただ渡すのではなく、使う条件に合わせて整える。AI導入・DX支援でも、綱業商会はその現場感覚を大切にしています。
講座を通じて見えたこと
実施報告の中では、受講者が精力的に質問・相談し、学習するだけでなく実用を目的として受講していたことが記録されています。一方で、AppSheetの基礎的な部分にはもう少し時間をかけてもよかったという振り返りもありました。
これは、現場DXにおいてとても重要な気づきです。便利な機能を覚えるより前に、データの持ち方、入力のルール、画面の意味、誰がいつ使うのかを腹落ちさせる必要があります。基礎が弱いまま機能を積み上げると、アプリは作れても運用が難しくなります。
逆に、基礎を理解した人が社内に一人でも育つと、小さな改善を自分たちで回せるようになります。項目を一つ増やす、表示順を変える、入力ミスを減らす、写真を添付する、通知を出す。こうした改善を外部依頼なしで試せることが、ノーコード活用の大きな価値です。
AppSheet講座は「アプリ制作」ではなく「現場の見える化」
この講座で作るアプリは、完成品としてのアプリであると同時に、業務を見える化するための教材でもあります。
どの情報を記録するのか。どの情報は選択式にすべきか。写真はいつ撮るのか。承認は必要か。過去データは誰が見るのか。通知は本当に必要か。こうした問いを整理していくと、アプリを作りながら業務そのものが見えてきます。
だからこそ、AppSheetは「手軽にアプリを作れるツール」で終わらせず、現場の考え方を整える入口として使うのが良いと考えています。綱業商会がNIRO講座で伝えたかったのは、まさにこの部分です。
今後の展開
2025年度のメニュー型DX研修では、AppSheet講座に加えて、Difyを使ったAIエージェント構築講座も綱業商会の研修として掲載されています。AppSheetが「現場の入力・管理・共有」を小さくアプリ化する入口だとすれば、Difyは「社内文書や業務知識をAIで活用する」入口になります。
どちらにも共通するのは、外部任せにしないことです。使う人が業務を理解し、自分たちで触り、試し、直していく。そのための伴走支援を、綱業商会は今後も続けていきます。
