有限会社綱業商会では、ロープ・ワイヤー・帆布などの現場資材を扱う会社としての実務経験を土台に、AI導入・DX支援にも取り組んでいます。
今回紹介するのは、公益財団法人 新産業創造研究機構(NIRO)の「DX実践・人材育成事業(メニュー型研修)」において、当社が研修事業者として実施したDify講座の事例です。研修名は「誰でもできる AI エージェント構築講座 〜Dify で始める社内 DX の第一歩〜」。生成AIやプログラミングに詳しくない方でも、Difyを使って業務効率化アプリを作れるようになることを目指した、実習型の講座です。
Dify講座で伝えたかったこと
この講座で大切にしたのは、「AIツールを紹介すること」ではありません。参加企業の方が、自社の業務を自分たちで見直し、必要なAIアプリを自分たちで作り、改善しながら使い続けられる状態に近づくことです。
Difyは、AIアプリやAIエージェントを視覚的に設計できるオープンソースのプラットフォームです。公式ドキュメントでも、既存のツールやデータソースを接続し、実際の課題を解くAIアプリケーションを構築できるものとして説明されています。プログラムを書かずに構成できる一方で、業務フロー、データ、モデル、出力形式をどう設計するかは、現場の理解が大きく影響します。
つまり、Difyは「便利そうなAIサービス」ではなく、業務を知る人が自分の業務に合わせてAIを組み立てるための道具として扱う必要があります。ここに、中小企業のDX支援としての意味があります。
ローカル環境で始める理由
講座では、DifyをローカルPC上に構築する手順も扱いました。DockerとGitHubを使ってDifyを起動し、参加者自身のPC上でAIアプリ開発の環境を整える内容です。
ローカル環境にこだわった理由は、大きく3つあります。
- データ保護:社内資料や会議内容を扱う場合、どこにデータが置かれ、どの外部サービスに送られるのかを理解しておく必要があります。
- コスト感:毎月のサブスクリプション費用だけに頼らず、小さく試しながら導入判断ができます。
- 技術の蓄積:環境構築から触ることで、AIを「使う」だけでなく、運用・改善するための勘所が残ります。
ただし、ローカルにDifyを置けばすべてが完全に社内だけで完結する、という単純な話ではありません。OpenAIやClaudeなどの外部APIを使う場合は、そのAPIへデータが送信されます。一方、OllamaのようなローカルLLMと組み合わせることで、より手元の環境に寄せた運用も検討できます。講座では、外部API型とローカルLLM型の違いを理解し、用途に応じて選ぶことも重要な学習ポイントにしました。
講座の全体像
研修は4日間・12時間の実習型として設計されました。NIROの公開資料では、AIやプログラミング未経験の方でも参加しやすく、ローカルPCにDifyを構築して業務効率化アプリを一から制作する講座として紹介されています。
当社の講座資料では、次のような流れで構成しました。
- AIエージェントの基本理解と、従来型チャットボットとの違いを整理する
- DockerとGitHubを使い、ローカルPCでDifyを起動する
- Difyの画面構成、モデルプロバイダー、ナレッジ、アプリタイプを理解する
- FAQチャットボット、商品説明エージェント、メール文面生成などのサンプルを作る
- 音声ファイルから文字起こしと要約を行い、議事録を作るアプリを構築する
- 自社業務のどこにAIを適用できるかを整理し、導入テーマに落とし込む
題材にしたのは「議事録作成AI」
メインの題材は、音声から議事録を作るAIアプリです。会議音声をアップロードし、文字起こしを行い、LLMで要点を整理し、最終的に議事録として使いやすい形に整える流れをDify上で構築します。
議事録は、多くの会社で身近な業務です。会議後に内容を思い出しながらまとめる、聞き逃しを確認する、共有用に整える、といった作業は地味に時間がかかります。AIの効果が見えやすく、かつ「完全自動化」ではなく人が確認して仕上げる運用にも向いています。
講座では、単に要約結果を出すだけでなく、出力フォーマットの調整、箇条書き・時系列・決定事項・アクション項目の分離、ユーザーが扱いやすい画面設計まで確認しました。AIアプリは、モデルの性能だけでなく、入力方法と出力形式の設計によって実用性が大きく変わります。

ノーコードでも、設計力は必要になる
Difyでは、チャットボット、テキスト生成、ワークフロー、エージェントなど、用途に応じたアプリタイプを選べます。さらに、ナレッジ検索、条件分岐、LLM処理、HTTP連携、開始・終了ノードなどを組み合わせることで、業務フローに近い処理を作ることができます。
このとき大事になるのは、「AIに何をさせるか」を言葉にできることです。たとえば、社内FAQを作るなら、どの資料を参照させるのか。議事録なら、何を決定事項として扱うのか。メール文面生成なら、誰に向けた、どの程度の丁寧さの文章にするのか。これらは技術だけで決まりません。
そのため講座では、Difyの操作説明だけでなく、業務を分解し、入力・処理・出力に整理する考え方も扱いました。現場の担当者が「この仕事ならAIに任せられそう」「ここは人の確認が必要」と判断できるようになることが、AI導入の第一歩だと考えています。
Ollamaを使ったローカルLLMの位置づけ
講座資料では、Ollamaを使ったローカルLLM環境の構築も扱いました。Difyをローカル環境で動かし、さらにローカルLLMを接続することで、社内で試せる範囲を広げる考え方です。
もちろん、ローカルLLMにはPC性能、モデルサイズ、処理速度、精度などの制約があります。すべての用途に最初から向いているわけではありません。それでも、社内資料を扱う検証、AIの仕組みを理解する学習環境、外部APIとの使い分けを考える場としては大きな意味があります。
生成AIの導入では、「どのサービスを契約するか」だけを考えると、現場に定着しないことがあります。自社の業務データ、情報管理、費用、担当者の習熟度に合わせて、クラウド型とローカル型を選び分ける視点が必要です。
業務効率化テーマを現場から探す
AIアプリを作れるようになっても、実際の業務テーマが見つからなければDXにはつながりません。そこで講座後半では、業務効率化のテーマを考えるワークも行いました。
考え方としては、ECRS(なくす、まとめる、入れ替える、簡単にする)や、AIが得意な拡張・予測・監視といった観点を使い、普段の作業を見直します。最初から大きな自動化を狙うのではなく、現場で困っている小さな作業から始めることを重視しました。
たとえば、次のようなテーマはAI導入の入口になりやすい領域です。
- 会議や打ち合わせの記録を整える
- 社内資料から必要な情報を探す
- 問い合わせ対応の下書きを作る
- 日報や報告書の文章を整える
- 見積や提案に必要な情報を整理する
どれも、いきなり完全自動化を目指す必要はありません。人が最終確認する前提で、まずは時間のかかる下準備をAIに任せる。そこから精度、手順、運用ルールを少しずつ改善していくほうが、現場には定着しやすくなります。

綱業商会がこの講座で意識したこと
当社は、もともとロープやワイヤー、帆布などの資材を扱う現場寄りの会社です。だからこそ、AI導入支援でも「新しい技術の説明」だけで終わらせないことを大切にしています。
現場では、担当者ごとの経験、紙やExcelに残った情報、属人的な判断、忙しくて整理できていない手順が多くあります。AIやDifyは、それらを一気に魔法のように解決するものではありません。しかし、業務を整理し、必要な情報を取り出し、文章化し、判断材料を作るところでは大きな力になります。
今回のDify講座では、受講者が自分のPCで環境を作り、AIアプリを動かし、業務テーマを考えるところまでを一緒に進めました。これは、当社が考えるAI/DX支援の姿に近い取り組みです。外から完成品を渡すのではなく、現場の方が自分たちで改善を続けられるようにする。そのための伴走が、綱業商会の役割だと考えています。
AIエージェントは、現場の改善活動として育てる
AIエージェントという言葉は大きく聞こえますが、実際の導入はもっと地道です。まずは一つの業務を選ぶ。入力を決める。AIに任せる処理を決める。出力を整える。人が確認する場所を残す。使ってみて直す。これを繰り返すことで、ようやく業務に馴染んでいきます。
Difyは、その試行錯誤を現場に近い形で行うための有力な選択肢です。特に中小企業では、専任のエンジニアがいなくても、業務をよく知る担当者が改善に参加できることが重要です。
綱業商会では、今後も自社での実践と講座・支援の両方を通じて、現場で使い続けられるAI導入を進めていきます。
AI導入・DX支援のご相談
AIエージェント、Dify、AppSheet、WordPress、社内資料活用、業務効率化など、綱業商会では自社で試した内容をもとに、現場に合わせたAI/DX支援を行っています。
「何から始めたらよいかわからない」「自社の業務でAIを使えるのか相談したい」「小さく試してから導入したい」といった段階からでも構いません。まずは現在の業務や困りごとをお聞かせください。
