2026.06.04

連載「Aina’Ola について」第 1 回: なぜ自分専門の AI が必要なのか ── 承認作業が回らなくなった中小企業の話

Aina'Ola 連載 01-why アイキャッチ

連載「Aina’Ola について」第 1 回です。前回 (序章: Aina’Ola とは何か) では、Aina’Ola が「育てる AI クローン基盤」であること、クローンの 3 階層構造、そして「使う AI は自由に選べる」設計であることをご紹介しました。

今回は、もう少し踏み込んで 「なぜ自分専門の AI が必要だと感じたのか」 を、弊社で実際に起きた話としてお伝えします。AI の活用を進めると、ある時期から新しいボトルネックが必ず現れます。そこに直面したのが、Aina’Ola を作り始めた直接のきっかけでした。

事務処理が速くなった、それなのに忙しい

弊社 (有限会社 綱業商会、社員 3 名) が業務の中で AI を使い始めたのは、ChatGPT が出た直後あたりからです。最初はメール文の下書き、見積書のたたき、議事録の要約 ── そんな定型業務でした。慣れてくると、文書作成にかける時間は驚くほど減りました。

「これは社員 1 人分くらいの効果が出ているのでは」── 当初はそう思いました。実際、社員 3 名の小さな会社にとって、AI による事務処理の自動化はインパクトが大きく、生産性は確かに上がりました。

ところが、しばらく経つと、不思議なことに「忙しさ」は減らないのです。むしろ、ある場面では以前より忙しくなった印象すらありました。

承認すべき量が、AI 導入前の数倍に

原因はすぐに分かりました。承認すべき仕事の量が、AI 導入前の数倍に増えていたのです。

AI が下書きを作ってくれるので、メール 1 通の作成時間は半分以下になりました。すると、これまで「面倒で後回しにしていた連絡」も含めて、社員が次々と起案するようになります。見積書、提案書、議事録、社内資料、ホームページ更新 ── すべて AI でドラフトが上がってくるようになりました。

下書きの「生産速度」は確実に上がりました。一方で、それを最終確認して「これで出して OK」と判断する作業 ── つまり承認作業は、相変わらず私 (経営者) の手作業のままだったのです。

結果、こんな状態になりました:

  • AI で 1 日あたりの起案数が 3 倍になった
  • 承認に必要な確認時間は変わらない (むしろ件数増で増えた)
  • 承認待ちの起案がたまっていく
  • 社員から「あの件、確認お願いします」が増える

「AI を導入したのに、なぜ自分はこんなに忙しいのか」── そのときの正直な感想でした。

「判断作業」だけが効率化できていない

冷静に分析してみると、AI で効率化できたのは「作業」の部分だけで、その先の「判断」はまったく効率化できていなかったのです。

もう少し細かく分けると、判断作業のうち実は次の 2 つに時間がかかっていることが見えてきました:

かかっていた時間 内容
判断材料を集める時間 「この件、過去に似た案件あったか」「先方の前回の意向はどうだったか」「うちの規約上 OK か」を都度確認する
判断軸に照らす時間 集めた材料を、自分の価値観・経営方針・優先順位に当てはめて「OK か NG か」を決める

このうち 判断材料を集める部分 は、AI である程度サポートできそうです。社内文書を読ませて要約させる、過去案件を検索する、規約を引用するなど ── ここは技術的に十分カバーできる範囲です。

問題は、もう一段奥にある 判断軸に照らす部分 でした。これは、私自身の経験・価値観・経営方針・業界の暗黙ルールを総動員する作業で、「ChatGPT に聞いて答えが出る」種類の問いではありません

なぜ ChatGPT では足りないのか

ChatGPT や Claude といった一般的な AI に「この案件、引き受けるべきでしょうか」と聞くと、それなりにまともな答えが返ってきます。教科書的に正しい、平均的に妥当な答えです。

でも、実際の経営判断には、こうした「教科書にない」事情がたくさん絡みます:

  • あの顧客は値段にうるさいが、トラブル時の対応が早ければ続けて発注してくれる
  • この工法は技術的に難しいが、過去に類似経験があるので実は社内でやれる
  • 納期的には厳しいが、◯◯部品メーカーの担当者は無理を聞いてくれる
  • うちの会社は短期の売上より、長期の信頼関係を優先する

こうした業界の感覚・自社の経験・経営者個人の判断軸は、公開された情報のどこにも書かれていません。だから ChatGPT に質問しても、ここまでは絶対に出てきません。

「ということは、ここを AI に乗せられたら、判断作業が一気に楽になるのでは?」── ここから Aina’Ola の発想が始まりました。

「自分専門の AI」は、他社に作ってもらえない

もう一つ気づいたことがあります。それは、「自分専門の AI」は、誰にも代わりに作ってもらえないということです。

もし「業界共通の AI」「製造業向け AI」のようなサービスがあれば、それは確かに便利でしょう。でも、その AI は競合他社も同じように使えます。AI の進化に伴って、こうした「業界向け AI」もどんどん高性能になり、どんどん汎用化していくはずです。差別化要因にはなりません。

一方、「自分の判断軸を乗せた AI」は、自社の中にしか作れません。その AI が出す答えは、誰の真似でもなく、自分自身の経験と価値観の延長線上にあります。これは、AI がどれだけ進化しても、他社が真似できない差別化資産になります。

そして大事なのは、これを作らないと、業務処理が速くなった分だけ経営者の負荷が増え続けるという現実です。「AI を入れたら経営者は楽になる」のではなく、「AI を入れた次のステップで、自分専門の AI を作らないと、むしろ経営者の負荷が増える」 ── これが弊社で実感したことでした。

承認作業を任せる、それが Aina’Ola の出発点

そこで考えたのが、こんな仕組みです:

  1. 自分の判断軸・価値観・過去の経験を AI に乗せた「自分のクローン」を作る
  2. 社員からの起案は、まずこのクローンが一次レビューする
  3. クローンは「自分ならこう判断する」という回答と、その根拠を返す
  4. 経営者本人は、その結論と根拠を見て、最終的な GO/NO-GO を決める

ポイントは、「クローンが完全に承認するわけではない」ことです。最後の判断は人間がします。ただ、クローンが「自分ならこう考えた」と整理してくれることで、判断作業の準備時間が劇的に減り、本当に難しい案件だけに頭を使えるようになります。

これが Aina’Ola の出発点であり、「自分専門の AI を、自分で育てて使う」という発想の原点です。

次回予告

次回 第 2 回 では、こうして作った自分専門クローンが、業務アプリの中で実際にどう使われているか をご紹介します。すでにブログでご紹介した SentivoxContrail も登場します。

連載全体については以下をご覧ください:

  • 第 0 回 (序章): Aina’Ola とは何か
  • 第 1 回 (本記事): なぜ自分専門の AI が必要だと感じたのか
  • 第 2 回: クローンを業務で使う ── 周辺アプリとの組み合わせ
  • 第 3 回: クローン人格の作り方 ── 3 階層の構造
  • 第 4 回: クローンが何を見て答えているか ── ナレッジ参照と、普通の RAG との違い
  • 第 5 回 (最終回): クローンを育てる ── 維持・メンテと自動化

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