連載「Aina’Ola について」第 3 回です。前回までで 「なぜ作るのか」「どう使うのか」 をご紹介しました。今回は本連載の中で最も実務的な内容 ── 「クローン人格をどうやって作るのか」です。
第 0 回で触れた Identity (アイデンティティ) / Skills (スキル) / Resources (リソース) の 3 階層を、実際にどう構築していくか、具体的な手順とコツをご紹介します。
クローンは「ファイルの集まり」でできている
まず、Aina’Ola 上のクローン人格は、特別な学習データやモデルファイルではなく ── 意外かもしれませんが ── 普通のテキストファイル (Markdown) の集まりでできています。
具体的には、こんな構成です:
| 階層 | ファイル形式 | 例えるなら |
|---|---|---|
| Identity | identity.md (1 ファイル、価値観・性格を記述) |
その人のプロフィール |
| Skills | skills/*.md (複数ファイル、思考フレームごとに 1 つ) |
その人の思考メモ・手順書 |
| Resources | resources/ 配下 (PDF・Markdown・テキスト・音声書き起こし) |
その人の本棚・案件記録 |
すべて利用者側のローカル環境 (PC や社内サーバー) に置かれます。クラウドにアップロードされません。これがクローン人格の本体です。
「テキストファイルの集まりで本当に AI が動くのか?」と思われるかもしれませんが、Aina’Ola はこのファイル群を、会話のたびに適切な形に組み立てて AI に渡しています。だから AI を切り替えても、別のチームに引き継ぐときも、ファイルをコピーするだけで済みます。
2 つの作り方 ── 対話パスと資料パス
クローンを作る方法は、大きく分けて 2 通りあります。
① 対話パス ── AI に質問してもらって作る
最初のおすすめは 対話パス です。Aina’Ola 側の専用 AI が、あなた (経営者本人) に質問してくれます。あなたは答えるだけで、回答内容が自動的に Identity・Skills・Resources の各ファイルに整理されていきます。
質問の例:
- 最も大事にしている価値観は何ですか
- 仕事で誇れる過去の判断は何ですか
- 「この案件は受けない」と決めるとき、何を見ますか
- 失敗から学んだ教訓を 3 つあげてください
- 後輩に伝えたい、暗黙の判断ルールはありますか
30 分〜1 時間ほどの対話で、最初の「叩き台クローン」が完成します。完璧でなくても構いません。後から育てていく前提です。
このパスは、「自分の判断軸を、自分でも整理しきれていない人」に向いています。AI に質問してもらうことで、自分の中の暗黙ルールが言語化されていく面もあります。
② 資料パス ── 既存資料を一括投入する
すでに自分の考えを書き溜めた資料がある場合は、資料パスのほうが早いです。
たとえばこんな素材があれば、そのまま Aina’Ola に投入できます:
- 過去のブログ記事や講演原稿
- 社内向けの経営方針文書
- これまで書いた提案書・議事録
- 顧客対応の指針マニュアル
- 取引先一覧 / 価格表 / 規約類
Aina’Ola はこれらを解析して、「これは Identity に入れるべき」「これは Skills (思考フレーム) として整理できる」「これは Resources として保管」と自動で振り分けてくれます。最後に経営者本人が内容を確認・修正して完成です。
この資料パスは、「自分の考えをすでに文書化している人」や、「ベテラン社員のクローンを作りたい (本人に対話の時間がない)」場合に有効です。
③ メディア入力 ── 音声・動画・画像も使える
テキスト以外の素材も、Aina’Ola はそのまま受け取れます。
| 入力形式 | 用途の例 |
|---|---|
| 音声録音 | セミナー講演・社内研修・顧客との通話 (本人の話し方・口調まで取り込める) |
| 動画 | YouTube に公開した自社の解説動画・社内研修動画 |
| 画像 / スクショ | ホワイトボードに描いた手書きメモ・図解 |
裏で文字起こしや画像解析が動き、最終的にはテキスト化された情報としてクローンに組み込まれます。「忙しくて文書化する時間がない」という経営者でも、講演や打ち合わせの録音さえあれば、そこからクローン素材を抽出できます。
Identity を作るときのコツ ── 「自分らしさ」をどう言葉にするか
3 階層のうち、いちばん難しいのが Identity (価値観・判断軸) です。「あなたの価値観は何ですか」と直接聞かれて、明確に答えられる人は多くありません。
弊社で実際に効果があったコツをいくつかご紹介します:
- 「過去の判断」から逆算する: 「あのとき、なぜそう決めたか」を 5 件くらい思い出して書き出すと、共通する軸が見えてきます
- 「絶対にしないこと」を先に書く: ポジティブな価値観より、ネガティブな線引き (例: 顧客に嘘はつかない、社員に無理な指示はしない) のほうが明確に出てきます
- 口調・言葉遣いも入れる: 「丁寧だが過度に低姿勢ではない」「結論を先に話す」など、口調レベルの指定もクローンの個性を作ります
- 業界特有の暗黙ルールを書く: 「製造業では、納期遅れの連絡は早ければ早いほどいい」のような、業界に住んでいる人にしか分からない感覚を明文化します
Identity は完璧を目指す必要はありません。「最初は粗く、使いながら直す」のが現実的なアプローチです。
Skills と Resources を分ける考え方
Skills と Resources の違いも、最初は混乱しがちです。簡単な見分け方:
| Skills | Resources | |
|---|---|---|
| 性質 | 判断のルール・手順 | 事実・データ・実績 |
| 変化頻度 | あまり変わらない (思考の型) | 常に追加される (新しい案件・新しい資料) |
| 例 | 「案件評価は採算性・施策・契約の 3 軸で見る」 | 「2024 年に受注した A 社案件の見積書」 |
| 更新頻度 | 月 1 回くらい見直す | 都度追加・古いものは Archive |
「考え方」が Skills、「材料」が Resources、と覚えると分かりやすいかと思います。
機密データはローカル完結で安全
Aina’Ola の「すべての素材は利用者のローカル環境に保管する」設計は、クローンを作るときにも効いてきます。
たとえば、過去案件の見積書を Resources に投入する場合、その PDF は利用者のローカル環境に保管され、外部 AI サービスにアップロードされません。クローンと会話する際も、Local LLM (Ollama 等) を選べば、機密情報を含む会話そのものが社外に出ません。
「自社の経営判断データを、外部の AI サービスに学習させたくない」というのは、中小企業ほど切実な要望です。Aina’Ola はそもそもアップロードしない設計なので、この懸念は構造的に解消されています。
最初は完璧を目指さない
最後にお伝えしたいのは、「最初のクローンは完璧を目指さない」ということです。
30 分の対話で作った叩き台でも、十分意味があります。実際に業務で使ってみて、「ここの判断が違う」「ここをもう少し丁寧に答えてほしい」と感じるたびに、ファイルを更新していけば良いのです。
このあたりの「育てる」プロセスについては、次回詳しくご紹介します。
次回予告
次回 第 4 回 は、「クローンが何を見て答えているか ── ナレッジ参照と、普通の RAG との違い」です。本記事で作った 3 階層 (Identity・Skills・Resources) が、クローンと会話するときに実際にどう組み立てられて AI に渡るのか ── Aina’Ola 独自のナレッジ参照ルールと、いわゆる「普通の RAG」との違いを掘り下げます。
連載全体については以下をご覧ください:
- 第 0 回 (序章): Aina’Ola とは何か
- 第 1 回: なぜ自分専門の AI が必要だと感じたのか
- 第 2 回: クローンを業務で使う ── 周辺アプリとの組み合わせ
- 第 3 回 (本記事): クローン人格の作り方 ── 3 階層の構造
- 第 4 回: クローンが何を見て答えているか ── ナレッジ参照と、普通の RAG との違い
- 第 5 回 (最終回): クローンを育てる ── 維持・メンテと自動化
関連ページ:
- Aina’Ola Project の概要 → Aina’Ola Project とは
- 受託開発のご相談 → お問い合わせ
