— 図面では見えない「設計の根拠」を形式知化する Contrail
機械設計や製品開発の現場では、図面や改訂履歴は残っていても、「なぜこの寸法にしたのか」「なぜこの材質を選んだのか」「過去にどんなトラブルがあって、それを避けるためにこの形状にしたのか」── こうした設計の背景事情は、設計者個人の頭の中にしか存在しないことが多くあります。
退職・異動・案件移管のたびに「なぜ」が消えていく。特に多品種にわたる製品ラインナップを管理している技術・製造部門では、過去案件の知見が個人 PC や記憶の中に眠ったまま、新しい案件で同じ検討を一から繰り返してしまう。
弊社でも同じ課題を感じていたため、自社用の社内ツールとして Contrail (コントレイル) という設計ナレッジ管理 AI アプリを開発しました。

Contrail の概要
Contrail は 「設計根拠ナレッジシステム」 ── 図面や技術資料の PDF を登録し、AI が設計者にインタビューして設計意図・根拠を構造化して蓄積します。後から自然言語でも、カテゴリ別でも検索可能。
主な機能:
- ドキュメント登録: 図面 PDF / 技術資料 PDF をアップロード。AI が表題欄や仕様欄を自動解析してメタデータを抽出
- AI インタビュー: 12 カテゴリの設計根拠を、AI が対話形式で設計者から引き出し、構造化して保存
- 改訂インタビュー: 図面改訂時の「なぜ変更したか」を Before/After 対比で記録
- ナレッジ検索: 自然言語クエリで RAG 検索 → AI が根拠リンク付きで統合回答
- カバレッジ可視化: 12 カテゴリのうち、どの根拠が記録済みか / 未記録かを表示
- クローン相談: Aina’Ola クローンと連携した、設計判断の壁打ちチャット (後述)
PDF を入れると AI が中身を整理する
PDF をアップロードすると、AI が表題欄や仕様情報を自動抽出します。設計者は確認・修正するだけ。
12 カテゴリで「設計の根拠」を体系化
Contrail は単なる「過去資料の検索」ではなく、設計判断の背景を 12 のカテゴリに分けて構造化します:
| カテゴリ | 内容 |
|---|---|
| 設計意図 | この部品は何のために存在するか |
| 機能要件 | 求められる性能・機能 |
| 材質選定 | 材質選定の理由 |
| 寸法根拠 | なぜこの寸法か (計算条件等) |
| 適用規格 | JIS / ISO 等とその選定理由 |
| 公差根拠 | 公差設定の理由 |
| 形状理由 | なぜこの形状か |
| 却下案 | 検討・却下した代替案 |
| 制約条件 | コスト、納期、加工方法等の制約 |
| 使用条件 | 使用環境・条件 |
| 関連部品 | 関連部品との関係性 |
| 過去教訓 | 過去のトラブル対策・教訓 |
特に 「却下案」 や 「過去教訓」 は、図面には書かれないが、次の世代に最も伝えたい情報です。AI が対話形式で引き出すことで、設計者が「言うほどでもないと思って書かなかった暗黙知」を拾い上げます。
AI が設計者にインタビューする
登録した図面について、AI が 12 カテゴリの観点で順番に質問します。設計者は会話するだけ。AI が回答を構造化して右ペインにリアルタイムで蓄積していきます。
全体の進捗を一覧で管理
「どの図面の根拠が記録済みで、どれがまだか」を全件俯瞰できる画面もあります。多くの図面を抱える部門では、個別の図面詳細を見るより先に全体の進捗マップで抜けを把握したい場面が多くあります。
各図面のバーをクリックすれば、その図面の未カバーカテゴリから追加インタビューを即開始できます。設計者が空き時間にちょこちょこ記録を進める運用が想定されています。
カバレッジで「漏れ」を可視化
各図面について、12 カテゴリのうち何カテゴリが記録済みかを表示。「設計意図と機能要件は記録あるが、材質選定や公差根拠は未記録」のような漏れを発見して、追加インタビューを開始できます。
自然言語で過去案件を横断検索
蓄積された根拠データに対して、設計者は自然言語で質問できます。AI は関連する過去案件の根拠を引き寄せ、根拠リンク付きで統合回答を返します。
開発のポイント / 採用技術
Contrail は以下の構成で開発しました:
| コンポーネント | 採用技術 |
|---|---|
| フロントエンド | React 19 + TypeScript + Vite |
| バックエンド API | FastAPI (Python) |
| LLM | Ollama (ローカル既定) / Claude / OpenAI から選択可 |
| Embedding | nomic-embed-text (Ollama) / OpenAI |
| ベクトル DB | ChromaDB |
| RDB | SQLite (WAL モード) |
| PDF 処理 | PyMuPDF |
ローカル LLM (Ollama) を既定にしているのが特徴です。秘匿性の高い技術資料を扱う以上、社外の AI サービスにデータを送らない構成を標準としました。クラウド LLM (Claude / OpenAI) も使えますが、選択は利用者側の判断です。
Aina’Ola クローンと組み合わせると「人格を持った AI 設計相談」に
Contrail には 「クローン相談」 という機能があります。これは弊社が開発している Aina’Ola という AI クローン基盤と接続して動く拡張機能です。
ここで言うクローン人格とは、Aina’Ola 側で構築・育成された personal clone (特定の人物の判断軸・口調・知識を AI に乗せたもの)のことです。Aina’Ola でベテラン設計者のクローンを作り、それを Contrail のクローン相談から呼び出すと、「○○年勤続のあのベテランならどう答えるか」を AI 経由で問い続けられるようになります。
通常の AI チャットと違うのは:
- 判断軸: 特定の設計者の癖や考え方を再現
- 多元参照: Contrail のドキュメント根拠 + Aina’Ola のクローン独自ナレッジを両方使って回答
- 透明性: 「AI が嘘を言っていないか」を参照元リンクで追跡できる
これにより、若手設計者が「あのベテランならどう判断するか」を、退職後でも AI 経由で問い続けられる仕組みになります。
クローン人格の構築・育成方法や、Aina’Ola 基盤の詳細について詳しくは → Aina’Ola Project とは
想定される利用シーン
以下のような部門・業務に向いています:
- 多品種にわたる製品ラインナップを管理している技術・製造部門
- 過去案件の設計根拠が個人 PC に分散している中小〜中堅製造業
- 改訂履歴は残るが「なぜ改訂したか」が記録されていない設計部門
- ベテラン設計者の退職を控え、暗黙知の継承に課題を抱える企業
同じような社内ツールを構築したい方へ
「自社の設計根拠を残したい」「過去案件の知見を組織で共有したい」「ベテランの判断癖を AI に乗せたい」── こうしたご要望に応えて、業務に合わせた AI アプリの受託開発を行っています。
- 同様のツールを構築したい方は → お問い合わせ
- Aina’Ola 基盤について → Aina’Ola Project
- 他の AI / DX 開発事例 → AI/DX 実例カテゴリ
